アイスランドのロイガヴェーグル(Laugavegur)でのトレッキングの記録(前半)です。ロイガヴェーグルについてはこちらを参照ください。
Day 1(2022年7月11日) 曇りのち強風・雨
07:30
レイキャーヴィーク → ランドマンナロイガル(Landmannalaugar) by bus
レイキャビーク市庁舎(City Hall)前をTREX社のバスで出発。30人ほど乗りましたが、ぱっと見、半分以上は日帰りトレッキングのようです。
市内のキャンプサイトで数人をピックアップした後、 Selfossを経由して、Hella でトイレ休憩。といっても、トイレが1つ(男女兼用の部屋)しかなく、とても時間内に順番は回ってきそうにないので我慢するしかありません。
休憩後、来た道を少し戻ってバスは北上します。ウルル(エアーズロック)のような山姿が左手に見えてくると、バスは右に折れて4WD専用のタフな道路に入ります。
すると、スマホの SMS には「へクラ(Hekla)に近づいているので注意」というメッセージがCivil Protection から入りました。へクラとはアイスランドで最も活動が活発な火山のようです。いつ噴火してもおかしくないということでしょう。お尻の穴がキュッとしまります。
悪路をバスに揺られること1時間半、いくつかの川を豪快に横断するとランドマンナロイガルに到着です。レイキャーヴィークからは4時間強のバス路でした。
12:30
ランドマンナロイガル(Landmannalaugar, 標高599m) → フラブティンヌスケル(Hrafntinnusker, 同1067m), 10.8km ▲572m ▼76m
ランドマンナロイガルのキャンプサイトでトイレと昼食(カロリーメイトを立ち食い)を済ませ、いよいよロイガヴェーグルでのトレッキングスタートです。朝の予報では降水確率100%でしたが、天気は何とか持ちこたえていました。
ランドマンナロイガルにはいくつものトレッキングコースがありますが、わたしたちのプランは川沿いをいく最短コース。
火山灰の黒、硫黄成分の茶褐色、苔の緑、雪の白、これまでみたことのないコントラストが迎えてくれました。
しばらく歩くと、岩場となり、地表からは硫黄ガスが噴き出しています。生きている地球の上を歩いていることを実感します。
ランドマンナロイガルから片道2キロ強までは周回コースになっていて、日帰りトレッキングの人で賑わっていました。
周回コースを過ぎると、断然、人は少なくなり、ロイガヴェーグル走破を目指す人だけになります(一部、日帰りトレッキングで足を伸ばしていると思しきグループもあり)。
ランドマンナロイガル発の場合、初日は上り(標高599→1067m)で途中からは雪道もあります。とはいえ、雪のないところもあるので、アイゼンを付けて歩くわけにはいきません。同じようなところでも、雪渓だったり土肌が露出していたりするので場所によって地表温度が違うのかもしれません。
標高を上げるにつれ、天気も怪しくなり、だんだん視界が悪くなってきました。
ブリザードで亡くなられた方の慰霊碑をみると心細くなってしまいます。
ガスがだんだん濃くなり、↓の数分後、だいたい50~100mごとにあったサインポールがまったく見えなくなってしまいました。足跡も見えず、完全にホワイトアウト状態です。
しばらくウロウロするも何も手がかりがみつかりません。GPS地図を立ち上げてみるとコースから40m外れているとのこと。Day 1のゴールまで2キロほど、GPSだけを頼りに歩く羽目になりました。
こうした状況のなか、わたしたちとは逆方向に向かう軽装備の女性と遭遇。ホッとするとともに、ホワイトアウトにまったく動じていない、余裕の表情に驚かされます。
16:45
GPSさまさまでようやくフラブティンヌスケルに到着。とりあえず暖をとりたく、インフォメーションに向かいます。寒さが予想以上だったので、ダメもとで山小屋に空きがないかを聞いてみますが、答えはノー。テント泊しかありません。テントサイト利用料(1人2,500ISK=約2,500円)を支払い、場所探しをしました。
しかし、インフォメーション(トイレ・水場)に近く、囲いの石垣がある場所に空きがありません。あっても地面に雪が張り付いています。少し離れたところで、ようやくスペースをみつけることができました。もう少し遅いと他人が使っている石垣の風下にテントを張らなければなりませんでした。
18:00
雨風のなか無事設営を終え夕食の準備するのですが、持参食(アルファ米)は、お湯で戻している間(15分)に冷えてしまいました。ホットウイスキーもリュックにぶら下げてきたカップで飲んだため、水でのばしたウイスキー。食事というよりもエサでした。
歯磨き・トイレにインフォメーションまで向かう元気はなく、歯磨きガムと歯磨きシートで歯磨きを済ませ、早々にシュラフに潜り込みます。
しばらく眠りについたものの、雨が打ちつけ、風にあおられる音で目を覚ますと、心配でなかなか寝付けません。白夜(日没11時半頃、日出3時半頃)で暗くならないことだけが幸いです。これで真っ暗闇だと心配は2倍、3倍になったでしょう。
おそらく2時間ほど、シュラフに入りながら様子をうかがっていましたが、「止まない風はない、雨もない」と思った瞬間、深い眠りに落ちました。妻からはあのなかでよく眠れるなぁと呆れられましたが。。。
Day 2(7月12日) 曇りのち晴れ
フラブティンヌスケル(Hrafntinnusker, 標高1067m) → アルフタヴァトン(Álftavatn, 同548m), 10.9km ▲83m ▼601m, 渡渉1回
05:00
目を覚ますと、少し雨が弱まった様子だったのでテントを出てトイレに。ただ、相変わらず強い風が吹いています。妻は不安から寝不足の様子。ロイガヴェーグルを歩きたいという勝手な望みに無理矢理付き合わせてしまったことを申し訳ない限りです。
07:00
陽が高くなれば、雨風もおさまるのではないかという根拠のない期待はあっさりと裏切られます。とはいえ、お腹は空くので朝食をとっていると、雨はほぼ上がりました。
スマホがつながらないので、インフォメーションで天気を聞くと、雨は大丈夫だけどクラウディな一日になりそうとのこと。雨が降らないと聞いただけでも気持ちは随分とラクになりました。
囲いの石垣をみると、光輝く大きな黒曜石がいたるところにありました。囲いとして使っていたのは、とても贅沢な石垣だったのです! 古代の人がこの輝きと石片の鋭さを求めたのがよくわかります。
08:50
風も弱まり雲もやや薄くなってきたので、他のグループより一足先にアルフタヴァトンに向けて出発しました。
いくつもの(支)尾根を横切る形で進むので、土(尾根)と雪(谷)の繰り返し。といっても、雪の下は解けて空洞になっています。
陽も射し青空も拝めるようになってきました。数時間前の状況からは想像もつきません。やはり「止まない風はない、雨もない」のです。
硫黄ガスが吹いている山肌は茶褐色なのですが、箱根の大涌谷の色とは少し違うような気がします。
すぐそこに迫る氷河? 厚み・色からして万年雪ではなさそうです。地球に熱せられた火山地帯に氷河があることにも驚きです。さしずめ地球と(氷河期を作り出す)太陽とのせめぎ合いでしょうか。
大きな尾根を越えると、遠くにアルフタヴァトンが望めるようになりました。が、まだまだアップダウンの繰り返しが続くようです。
ときには硫黄ガスが噴き出すすぐ横を通らなければなりません。日本ならまずこうしたところにコースを設定しないでしょう。硫黄臭もきつく、足早に駆け抜けます。
最後の尾根。ここを越えるとアルフタヴァトンに向けて急な下りです。
下りの途中、妻は尾骶骨を石に打ち付け、わたしは膝を捻ってしまいまがしたが、大事には至らず。ロイガヴェーグルの途中では、脚を痛めてしまった人を何人かみかけました。重いリュックを担いでいるとバランスを崩しやすいのです。
平らなところまで下りてくると、辺り一面の苔。人工的な苔庭でなく自然の苔庭、これもまたなんと贅沢なことでしょう。
わたしたちに追い抜いて行った親子(母娘)が逆戻りしてきました。コースを間違えたのかと思いきや、川でコースが遮られ、渡渉ポイントを探しているようです。が、川に入らずに渡ることができるところはありません。ロイガヴェーグルで最初の渡渉です。
母娘をみていると、膝まではなさそうですが、かなり流れはきつそう。わたしたちもサンダルに履き替え、冷たい水のなかに入りました。
「冷てぇー!」、あまりの冷たさに思わず声を上げてしまいます。たった5mほどの渡渉でしたが、上がった頃には指先がマヒしている感じでした。ま、雪渓の脇を流れる川ですから当然です。
渡渉を終えると、アルフタヴァトンの山小屋までは一直線。近いようにみえるのですが、地図をみると意外と距離がありました。
13:40
アルフタヴァトンに到着すると、レストラン&バーまでありました。Barという単語に惹かれビールでも飲みたいなと思いつつ、インフォメーションに向かうとビールが売られています! 2人のテントサイト利用料を支払うとともにビールを購入。今日の昼食はビール付です。
2日目はテントサイト一番乗りだったので、ペグを押さえる石が多いところを探します。わたしたちより先に行く人もいたはずですが、ここには泊まらず、4キロほど先のハヴァンに向かったのでしょう。
昼食の後も時間はたっぷりあったのですが、周囲の山々を歩く体力的余裕まではありませんでした。湖畔に行きたいと思いつつも、川に阻まれ近づけません。
17時過ぎでも陽はまだ高いところにあります。
この日は前晩と打って変わって、静かな夜を迎えることができ、7時間ほど爆睡してしまいました。
後半に続く。